医師としてのキャリアに迷いを感じていませんか？
専門医取得後の進路、開業のタイミング、ワークライフバランスの確保など、医師特有のキャリアの悩みは尽きません。
実際、多くの医師が「このままの道を歩んでいいのだろうか」「知り合いの医師は充実しているようだが、自分は毎日仕事に追われてプライベートな時間の確保もままならない」と悩んでいます。
本記事では、年代別のキャリア戦略から具体的な選択肢、そして後悔しないための重要ポイントまで、転職支援のプロが徹底解説します。
医師のキャリアプランが重要な3つの理由
医師のキャリアは他職種と比較して極めて多様な選択肢があります。
研修終了後、専門医取得、そして開業や転職、企業への転身など、それぞれの分岐点で人生が大きく変わります。
しかし、この豊富な選択肢があるからこそ、早期からのキャリアプラン策定が不可欠です。
第一に、年齢とともに選択肢が狭まる現実があります。
外科系を志すなら、どの領域で専門医を目指すかは20代のうちに決める必要があります。開業を考えるなら資金準備に10年以上かかることも珍しくありません。
研究者への道では博士号の取得や論文実績の積み重ねに時間がかかり、外科医では手術手技の習得に相当な時間と労力が必要です。
例えば、IVR専門医高度な画像診断技術と手技の両方が求められ、海外医師免許の取得を目指すなら若手医師向けのプログラムが充実している時期に動くべきでしょう。
第二に、医局制度や専門医制度など、医師特有のシステムが存在します。
新専門医制度の導入により、専門医取得のプロセスも変化しています。
これらを理解せずにキャリアを歩むと、後になって「あの時ああしておけば」という後悔につながります。
医局派遣のシステムや専攻医プログラムの選択、サブスペシャリティ領域への進路など、医師ならではの制度を考慮した計画が求められます。
第三に、ライフイベントとの両立が挙げられます。
結婚、出産、育児、親の介護など、人生の節目とキャリアの転換期が重なることが多く、事前の計画なしでは両立が困難になります。
特に30代は専門医としてのキャリアを確立する重要な時期であると同時に、家族形成の時期でもあります。
当直免除制度や24時間託児所の有無、産休・育休後の復職支援体制など、ライフステージに応じた職場環境の選択が長期的なキャリア継続の鍵となります。
医師が選べる5つのキャリアパス
近年、働き方改革やIT技術の発達によって、医師のキャリアの選択肢はさらに広がっています。
従来の勤務医や開業医という枠組みを超えて、企業への転職や医療系ベンチャーの立ち上げなど、多様なキャリアパスが現実のものとなっています。
勤務医として専門性を深める道
勤務医としてキャリアを積んでいく場合、専門医取得後あたりから具体的なキャリアビジョンを描く医師が多くなります。
大学病院では教育や研究に携わりながら、最新の医療技術に触れることができます。
臨床だけでなく、専門医の育成などの教育活動や、学会での指導的役割を担うことで、次世代の医療を支える立場として活躍できるでしょう。
市中病院では豊富な症例を経験し、実践的なスキルを磨けます。
一般病院で勤務を続けながら医局長や院長などの役職を目指す道もあります。
専門病院への転職では、特定領域のエキスパートとして高度な専門性を追求することが可能です。
勤務医の最大のメリットは安定した収入と、組織に守られた環境での診療です。
開業などと比べると時間的自由は制限されるかもしれませんが、ライフステージに合わせて働き方を調整しやすいという利点があります。
開業医として地域医療に貢献する
開業には5,000万円から8,000万円程度の初期投資が必要ですが、経営者として自身のビジョンを実現できる魅力があります。
厚生労働省が令和4年3月に発表した「在宅医療の現況について」によると、訪問診療クリニックは年々増加しており、開業する医師が増えていることが示されています。
近年は在宅医療専門やオンライン診療を組み合わせたハイブリッド型など、従来の開業スタイルにとらわれない新しい形態も登場しています。
令和6年12月の規制改革推進会議で発表された資料によれば、オンライン診療を組み合わせたBooth型診療所を展開する医師も出てきています。
30代での開業も増加傾向にあり、若いうちから経営感覚を養うことで長期的な成功につながるケースが見られます。
開業時の主な課題
医療機関の飽和により立地選定が難しい
初期投資や人件費の高騰により経営の見通しが立てにくい
在宅医療専門では24時間対応が求められる場合がある
スタッフの採用や財務管理など、経営者としてのスキルが必要企業で医療の新しい価値を創造する
医師の知識・経験は、特に製薬会社や医療機器メーカーで高く評価されています。
現場の医師の意見が製品開発に十分反映されていないケースもあるため、医師の企業参画によって、より実践的な製品・サービス開発につながることが期待されています。
臨床試験の計画立案で現場の実態に即した提案をしたり、医療機器の使い勝手に関する具体的な改善点を指摘したりと、独自の視点を活かすことができます。
経済産業省の調査によれば、規制当局の審査基準厳格化や開発コストの高騰により、企業単独での医療イノベーションが難しくなっています。
こうした状況下で、医師の専門知識は医療系ベンチャー企業の設立や、既存企業へのアドバイザリー役員としての参画を通じて、効率的な製品開発や医療現場のニーズに真に応える価値創造に貢献できるでしょう。
産業医としてのキャリアも選択肢の一つです。
企業内で従業員の健康管理に携わる産業医は、専属と嘱託の形態があり、それぞれ業務内容や勤務形態が異なります。
起業家として医療イノベーションを起こす
現代社会では医療情報があふれるようになり、人々の健康への関心も高まっています。
そのため、医師が従来の診療以外の活動もしやすくなってきました。
特に、インターネットやSNSの普及によって、誤った医療情報が拡散しやすくなっているため、医師による正確な情報発信がより求められています。
デジタルヘルスケア市場の拡大に伴い、健康管理アプリやオンライン医療相談サービスなど、新たなビジネス領域も生まれてきています。
医学的な監修や専門的な知識が役立つことから、医療系ベンチャーを立ち上げる医師も増加中です。
再生医療や美容医療に関連した企業、医療機関の開業支援を行う企業など、患者や医療現場の課題解決を目指す事業は多様化しています。
さらに、医学教育コンテンツの制作や健康関連書籍の執筆など、教育分野での活動機会も広がりつつあります。
週末起業などの小規模から挑戦を行うことで、自信をつけながら独立起業を模索する医師も増えています。
医療行政・公衆衛生で社会システムに関わる
厚生労働省の医系技官、保健所の公衆衛生医師、WHOなどの国際機関など、医療政策や公衆衛生の分野で活躍する道もあります。
個々の患者ではなく、社会全体の健康増進に貢献できる領域です。
外務省の医務官として国際的な医療支援に携わる選択肢もあり、これらのキャリアには、医療現場での経験だけでなく、政策立案能力や語学力といったプラスアルファのスキルが求められることもあります。
地域医療構想への参画や、自治体の医療政策アドバイザーなど、地域レベルでの貢献の形もあります。
年代別キャリアプランの立て方
医師が自分で立てた計画どおりにキャリアアップをしていくには、それぞれの年代で経験やスキル、資格などを身につけることが大切です。
キャリアの選択肢は年齢を重ねるごとに狭まっていくため、各年代での戦略的な判断が重要になります。
20代：基礎固めと専門性の確立
初期研修を終えた20代は、医師としての基礎を固め専門性を確立する時期です。
この時期の専門医資格の取得が、将来の診療科の選択肢を広げる重要な要素となります。
内科専門医からは循環器、消化器、呼吸器などへ、外科専門医からは消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科などへと、基本領域の専門医取得がサブスペシャリティへの道を開くでしょう。
この時期に旧制度の専門医を、専攻医の場合はサブスペシャルティ領域の専門医まで取得することで、30代半ばでは一定の裁量権を持った仕事を任せられる傾向にあります。
ただし、医局の入局システムや専門医プログラムの特徴、研修施設の症例数や指導体制、当直回数や時間外労働の実態、専攻医の待遇や福利厚生、地域による診療科の需給バランスなど、様々な要因を考慮する必要があります。
20代で決断すべき重要事項
専門医資格の取得を最優先（内科→循環器・消化器など、外科→各外科領域）
幅広い症例経験の蓄積（症例数の豊富な施設を選ぶ）
転科は20代のうちに（30代以降は研修期間が長期化、制約が増える）
海外医師免許取得も若手向けプログラムが充実している今のうちに外科系やIVR専門医など、高度な技術を要する分野を志すなら、体力と学習能力が最も高いこの時期に決断すべきでしょう。
手術手技の習得には相当な時間と労力がかかり、技術の習得に必要な時間を考慮すると、若手向けの研修プログラムに参加できる年齢のうちに方向性を定めることが重要です。
給与面での不満から転職を考える医師もいますが、この時期は経験の蓄積を優先すべき期間です。
30代：キャリアの方向性を定める分岐点
30代は専門医としての経験を蓄積しながら、将来のキャリアの方向性を見極める時期に差し掛かる頃合いです。
臨床経験の質的な向上とキャリアの転換点という2つの観点から、重要な年代となります。
30代前半は専門医としての経験を深める時期であり、より難度の高い手術や処置における執刀医としての機会、重症患者の主治医として総合的判断を行う場面、若手医師への指導的立場での関わり、医療チームのリーダーとしての役割、学会発表や論文執筆の機会などが増えてきます。
30代後半は転職市場で最も価値が高まる時期といえるでしょう。
十分な経験を積みながらも、今後の成長ポテンシャルも期待されるため、多くの医療機関から引き合いがあります。
ただし、管理職候補として求められるため、マネジメント経験や後輩育成の実績が重要な評価ポイントになります。
30代で求められる能力
| 診療科 | 評価されるスキル |
| 外科系 | 執刀医としての経験数、一人で完結できる手術の種類 |
| 内科系 | 他医師との役割分担への柔軟な対応、診療方針を合わせた協同 |
| 共通 | 後輩の指導力、チームのマネジメント力 |
この年代は結婚や出産、育児といったライフイベントが重なる時期でもあります。
当直免除制度や24時間託児所などの育児支援体制の充実度、転居を伴う異動の可能性、収入面での安定性など、ワークライフバランスに関わる項目も重要な判断材料となります。
女性医師の場合、産休・育休後のキャリア継続を見据えた計画が特に重要です。
女性医師に対してウェルカムの姿勢を示し、当直を免除したり24時間の託児所を用意したりする病院が増えています。
耳鼻科や皮膚科など、小規模な科で転職を希望する場合は30代後半が一つのポイントになるでしょう
小規模な科は常勤医が一人という病院が多く、その医師の年齢は40〜50代という場合が多いため、同年代の医師だとポストがバッティングしてしまいますが、30代のうちの転職なら次世代として求められることが多いのです。
40代：キャリアの確立と新たな挑戦
40代は医師としての実力が評価され、部長職などの管理職ポストや、開業の本格的な準備を進める時期です。
豊富な臨床経験を持つこの年代には、リーダーシップとチーム医療の運営能力が求められます。
病院経営の視点も必要となり、損益計算書や貸借対照表を理解した上での経営感覚が重要です。
実際、病院によっては部長クラスの医師が定期的に集まって業績報告をしており、場合によっては業績改善提案も行っています。
部長職を目指す場合、経営的な視点や能力が必要なことを知っておく必要があるでしょう。
また、医師としてのリーダーシップの質も問われ、円滑にチーム医療ができるかどうかがポイントですが、チーム医療の概念は大学病院と民間病院で異なる場合があります。
大学病院の外科ではチーム医療の概念が医師と手術室の看護師の協働の範囲であることが多いのに対し、民間病院の外科では病棟の看護師も含まれ、内科なら院内の多職種スタッフをはじめ地域のスタッフとの連携も求められます。
40代のキャリア選択肢
部長職などのポスト獲得：実績による評価が重視される、副部長から昇格するケースも増加
開業準備の本格化：資金調達（5,000万円〜8,000万円）、経営スキルの習得
転科の最後のチャンス：脳外科など症例数減少の外科系→内科系へ転職に際しては、ポストを意識した選択になることが多くなります。
大学では講師の肩書きがあるから、部長職で招き入れてほしいという要望もあるかと思いますが、適切なポジションが空いていない場合、副部長などの職位で入職して部長の医師と実績を競うことになることもあります。
半年ほど経った頃に業績の高い方の医師が部長職に就くといった形で、実力で評価される傾向が数年前から見られており、転科を考えるなら、現実的には40代～50代前半が最後のチャンスです。
実際、脳外科などの症例数が減少している外科系から内科系への転科を選択する医師も増えています。
市場動向を冷静に分析し、戦略的なキャリアチェンジを行うことで、50代以降も安定した診療を続けられます。
一方、自身の診療スタイルが確立されてきているこの世代は、転職後にギャップを感じやすい点に注意が必要です。
出身医局によって細かな手技が違ったり、看護師に任せる範囲が異なったりするため、そうした変化をスムーズに受け入れる柔軟性も大切です。
子どもの教育費負担が増大する時期でもあり、金銭的な安定性も考慮した選択が求められます。
住宅ローンなどの金銭的責任も無視できないものの一つとなってきます。
転職による給与アップを目指すなら、この年代が好機といえるでしょう。
50代：働き方の見直しと次世代への継承
50代は豊富な経験を活かしつつ、QOL重視の働き方へシフトする時期です。
医師としてのピークを迎え、医療機関や医局内でも組織内で責任あるポジションを任せられる傾向にあります。
若手には難しい総合的な判断力や、長年の経験に基づく患者との信頼関係構築など、ベテラン医師ならではの強みを活かせる立場が増えてきます。
50代の働き方の選択肢
| カテゴリ | 具体的な選択肢 |
| 体力的負担の軽減 | 当直免除、外来専門、療養型病院への転職 |
| 高齢者医療 | かかりつけ医、在宅医療、老健施設長、緩和ケア |
| 教育者 | 臨床教授、研修医指導医、学会での指導的役割 |
転職市場では、この年代の医師に対して給与水準の見直しを求められることがあります。
40代まで当直込みで年収1,800万円だった医師が、50代で当直免除を希望する場合、年収が下がることも珍しくありません。
当直免除なら給与減になる場合は多く、収入よりも働き方の質を重視する価値観への転換が必要です。
在宅医療への転身を考える場合、やりがいと高収入が魅力ではあるものの、体力も必要であることや、診療報酬改定など制度等の変更が多い分野であることは理解しておく必要があります。
リタイアまでのソフトランディングとしては、中小病院で外来だけあるいは病棟だけのゆるやかな勤務を担い、60代になって老健の施設長などにシフトするとスムーズなようです。
キャリアの集大成をどうするか、定年後はどうするかなどを考える必要もあり、FIREなどによる早期リタイアも選択肢の一つです。
キャリアプラン策定で必ず確認すべき5つのポイント
医師免許を取得し専門医も取得したこれからの時期こそ、キャリアプランを立てる上で重要なポイントがあります。
若手の医師がキャリアプランを立てる時には、以下の項目をしっかり考える必要があります。
1. 自分の市場価値を正確に把握する
医師の年収や待遇は、勤務先や経験年数、専門性によって大きく異なります。
自身の市場価値を正確に把握することは、将来のキャリアプランを立てる上で重要なポイントの一つです。
特に医師の年収相場は、勤務形態や地域性によって大きな開きがあります。
都市部の大学病院勤務医と地方の市中病院勤務医を比較すると、基本給に加えて当直手当や研究費など、待遇全般に大きな違いが生じるケースが多いです。
年代別平均年収（ドクタービジョン2023年調査）
| 年代 | 男性 | 女性 |
| 20〜24歳 | 614.8万円 | 484.9万円 |
| 25〜29歳 | 697.1万円 | 581.5万円 |
| 30〜34歳 | 1,007.3万円 | 781.7万円 |
| 35〜39歳 | 1,297.4万円 | 1,136.7万円 |
| 40〜44歳 | 1,521.1万円 | 1,307.6万円 |
| 45〜49歳 | 1,738.8万円 | 1,342万円 |
| 50〜54歳 | 1,927.1万円 | 1,829.6万円 |
| 55〜59歳 | 1,760.2万円 | 1,401万円 |
30代後半の内科医の場合、年収1,200万円あたりが平均値です。
これがさらに専門医資格の取得や、特定の専門分野での実績によって待遇アップにつながる可能性があります。
まずは年代別の平均的な年収を把握し、自分の年収と照らし合わせてどれだけの市場価値があるのかを把握しておくと良いでしょう。
転職を考える際は、専門のコンサルタントに相談し、客観的な市場評価を得ることが重要です。
医師専門の転職コンサルタントの場合、豊富な転職支援実績を基にした実践的なアドバイスが期待できます。
2. 開業か転職か、明確な方向性を決める
現在勤務している医局や医療機関で働き続けるのかどうかを考えることが、キャリアプラン策定の第一歩です。
転職するなら、どこの地域のどういう医療機関なのかも考える必要があります。
一方で開業する場合には、その資金の準備も必要です。
働く地域によっては転居を要することもあり、地域によって住宅の買い方や借り方も変わってきます。
開業には8,000万円規模の資金準備が必要であり、内装工事や医療機器など物件確保から含めて総額で5,000万円から8,000万円程度の資金が必要なケースが一般的です。
融資を検討する場合、総費用の2割程度の自己資金があることで、より有利な条件での借り入れが可能になると言われています。
土地や建物の購入を考える場合は、さらに多額の資金が必要になる可能性も考えられます。
経営者としてのスキルも求められ、スタッフマネジメントや事務長との連携、地域医療連携の構築など、勤務医時代から意識してスキルを身につけておきたい能力が多くあります。
転職では専門性を活かせる環境か、満足いく勤務条件かなど、異なる判断基準が必要です。
給与体系や当直回数、休暇取得状況、病院の将来性として経営状況や医療機器の充実度、研修制度の整備状況、通いやすい場所か家族の生活環境への影響の度合いなど、多角的な視点での検討が求められます。
現在の職場での継続も含めて、複数のシナリオを比較検討しましょう。
3. ライフイベントを織り込んだ計画を立てる
家族の生活設計とキャリアは切り離せません。
配偶者の仕事、子どもの教育環境、親の介護など、家族全体のライフプランとの調整が必要です。
パートナーが地方への転勤や海外への留学予定がある場合、自分はどういったキャリアを積みたいかなど、ある程度今後のことを話し合っておくべきでしょう。
実際に今まで住んでいた地域とは違う場所へ移住した場合には、そのエリアの医療機関などの情報収集も必要です。
妊娠・出産・育児（特に女性医師）
産休・育休の取得時期の計画
職場への妊娠報告のタイミング
代替医師の確保と引き継ぎ
復職後の勤務体系の検討
保育施設の確保と緊急時の対応
当直・オンコール体制の調整家族との時間を重視する場合、診療科の選択も重要な要素です。
皮膚科や眼科など当直業務にかかわることが少ない診療科や、健診センターのような定時勤務が基本の職場を選択することで、より計画的な時間管理が実現する可能性があります。
さらに特に現代で多い核家族の場合には、パートナーから子育ての協力をどこまで得られるのかも非常に大切です。
介護が必要になる可能性も視野に入れておく必要があります。
介護が必要な時間の予測と対応、介護施設・サービスの調査、兄弟姉妹との介護負担の調整など、40代以降に直面する可能性のある課題についても、早めに考えておくことが望ましいでしょう。
4. 引退時期から逆算した資金計画を作る
何歳まで働くかによって、必要な資金準備が変わります。
定年制度（2025年現在）
| 勤務先 | 定年年齢 |
| 公務員医師・公的病院 | 65歳（矯正施設等は70歳） |
| 私立病院 | 60歳、65歳、70歳と様々（定年制なしも） |
| 開業医 | 定年なし（自己決定） |
このように勤務する場所によって大きく異なるため、何歳まで働くかを予め決めておくと、転職や開業をしてもキャリアの目処をある程度立てやすくなるかもしれません。
高年齢者雇用安定法の改正により、60歳未満の定年禁止、65歳までの雇用確保措置が義務となり、2021年には再度改正され定年や継続雇用で70歳までの就労が企業への努力義務となりました。
生涯現役で活躍したい場合には、勤務医だけでは難しい場面が出てくるため、若いうちに自分のクリニックを開業するなどの環境づくりを行っておく必要があるでしょう。
多様な働き方の落とし穴となるのが、生活資金や老後資金の問題です。
フリーランスや非常勤（アルバイト）の働き方、頻繁に転職を繰り返した場合には、同じ病院で長く働いたときのような退職金などは得られません。
また今は大丈夫でも、老後の資金やご自身が疾病などで働けなくなったときの資金も考えておく必要があります。
さらにお子さんが居る方であれば、ご自身の子どもの進路が学費のかかる医学部や理系学部だった場合には、教育資金の準備も必要です。
資金計画で考慮すべき点
非常勤やフリーランスとして働く場合、収入の不安定さへの対策が重要と考えられます。
あらかじめ毎月必要な生活費を把握しておき、今後の収入推移の見込みからどの程度の期間であれば損失に耐えられるかなどのシミュレーションをしておくと判断しやすいかもしれません。
また、確定申告や税金の管理など、新たな知識の習得も必要になります。
iDeCoやふるさと納税といった節税対策の知識を身につけることで、より効率的な資金管理が可能になる可能性があります。
5. 自分の軸を持ち、流されない判断をする
これはすべての医師に共通する重要なポイントですが、自分軸はちゃんと持てているかという点です。
医師のキャリアパスは近年多様化しています。独立起業やフリーランスなどで働く医師を見れば、「あの働き方も面白そう！自分もやってみたい！」と感じることがあるでしょう。
そうした刺激は非常に良いものですが、刺激を得る度に流されていては、臨床経験や専門性が極められない可能性も出てきます。
「なぜ医師になったのか」という原点に立ち返り、自分が大切にしたい医療の形を明確にしましょう。
これまでの診療経験の中で、特にやりがいを感じた場面や充実感を得られた瞬間を振り返る中で、自身が大切にしたい医療の形が見えてくることもあるでしょう。
患者さまへの価値提供や医療実践に対する考え方など、本質的な部分での方向性を持つことが推奨されています。
明確な軸を持たないままキャリアを選択する場合、表面的な魅力や一時的な興味だけで判断してしまうリスクがあります。
例えば、開業医の収入や、フリーランスとして柔軟な働き方といった外形的な部分のみに注目してしまう懸念です。
安易な気持ちで判断すると、理想と現実のギャップに直面するかもしれません。
自分の軸を見つけられていれば、専門分野の選択や開業の判断など、様々な意思決定の際の基準として機能します。
行きあたりばったりではなく、若いうちに自分軸を持ったうえで、現状にあった方向修正をしていくのが理想のキャリアパスです。
キャリアプラン実現のための具体的アクション
理想のキャリアを実現するには、計画的な準備と行動が必要です。
まず、自身の強みや経験を客観的に分析しましょう。
専門医資格、執刀医実績、論文発表数、マネジメント経験など、市場価値を高める要素を整理することから始めます。
キャリアプラン実現のステップ
- 自己分析：希望を明確化（専門領域、勤務形態、収入、ワークライフバランス）、5年後・10年後のイメージを具体化
- 現状分析と目標設定：現在の専門性・経験年数・資格・人脈を分析、目標との差異を特定
- 情報収集：専門医や認定の要件確認、目標とするポジションの募集要項調査、ロールモデル研究
- アクションプラン作成：必要な資格取得のスケジュール、経験を積むべき分野や施設の選定、学会・研究会への参加
次に、目標達成に必要な資格取得のスケジュールを立てます。
サブスペシャリティ領域の専門医取得には数年かかることもあり、逆算した計画が必要です。
並行して、学会や研究会への参加を通じた人脈形成も重要です。
ロールモデルとなる医師との出会いは、具体的なキャリアイメージを描く助けになります。
大切なのは、目標から逆算して必要なアクションプランを立てることです。
転職を検討する場合、医師専門のコンサルタントへの相談が効果的です。
非公開求人情報へのアクセスや、面接対策、条件交渉など、専門家のサポートを受けることで、より良い条件での転職が実現できます。
医療機関の内部事情や職場環境など、求人票だけでは分からない情報を得られる点も大きなメリットです。
診療科や地域ごとの需要動向、医療機関の特色や職場環境など、一般的な求人情報では得られない詳細な情報を入手できるでしょう。
医師の転職市場では、年齢や経験によって求人条件が大きく変動する可能性があります。
好条件での転職機会を逃さないためには、定期的な市場確認を怠らないことが重要です。
特に専門医取得後や一定の経験を積んだタイミングが、市場価値が高まる時期とされています。
医療制度の改革や働き方改革の影響により、医師の需給バランスも変化していく可能性があるため、定期的な情報収集はしておいた方が良いでしょう。
転職で後悔しないための注意点
キャリアプランの実現に転職が必要な場合、いくつかの失敗パターンを知っておくべきです。
よくある失敗パターン5つ
- 給与だけで判断してしまう：高収入を提示する医療機関には理由があります。過酷な勤務環境や人手不足が背景にあることも。医師不足の病院は通常より高い報酬を求められても採用する場合もありますが、周囲以上に働いていなければ居心地が悪く、結局すぐに退職したケースもあります。
- 環境の違いに適応できない：大学病院と民間病院ではチーム医療の概念や看護師との役割分担が大きく異なります。長年看護師の業務だと思っていたことを、転職後は自分で行わなくてはならないこともあります。事前に非常勤で経験するなど、実際の職場環境を確認することが重要です。
- 家族との調整不足：転居を伴う転職の場合、配偶者のキャリアや子どもの教育環境への影響を事前に話し合わなければ、家庭内の不和につながります。
- 理想と現実のギャップ：南の島や田舎での地域医療を希望し、のんびりとしたイメージを抱いていると要注意です。実際に赴任してみると、24時間365日オンコール体制の負担が想像以上にきつく、疲弊する場合があります。幅広い疾患を診るため一定期間はと夢をもって赴任したものの、イメージとのギャップが大きく1年で転職した医師もいます。
- 早まった判断：急性期病院でバーンアウトした医師は「急性期はどこも過酷なもの。もう急性期以外に行くしかない」と思い込んでいる場合がありますが、実際にはそれほど激務でない急性期病院もあります。一定期間はケアミックス等で働き、気力・体力が回復してから急性期に戻る方法もあります。
ライフスタイル重視の転職での注意点
最近の急性期病院は、自身のライフスタイルを重視する医師を受容してくれるところが増えていますが、同時に給与体系を変えているところも増えています。
当直や残業免除の分、給与が低く抑えられ、将来のポストにも影響する場合が多いため、転職するならそうした点を割り切ることが必要です。
常勤ではなく、非常勤にした方が理想のライフスタイルになることもあります。
まとめ：今すぐ始められる一歩
医師のキャリアプランは、年代に応じた戦略的な思考と、早めの行動が成功の鍵です。
20代での専門性確立、30代での方向性決定、40代でのキャリア確立、50代での働き方見直しと、それぞれのフェーズで適切な選択をすることで、後悔のない医師人生を送れます。
医師免許を有した後のキャリアは、臨床医・研究医・開業医・起業をはじめ、その他のキャリアを積む方、並行して起業と開業を行う方など、非常に選択肢が多彩です。
だからこそ、キャリアアップを目指す場合は、資格取得や組織活性化につながる能力を高めるだけでなく、ライフステージの変化なども見据えたキャリアプランの構築も非常に大切です。
まず始めるべきこと
・自身の市場価値を知る
・理想とする5年後、10年後の姿を具体的にイメージする
・現状と目標のギャップを明確にする
・専門家に相談する
キャリアプランに迷ったときには、同じ医師の知人・友人や先輩・同輩に相談することも手ですが、転職エージェントや医療機関の採用担当者との面談を通じて、自身の市場価値を把握できる可能性があります。
話の中で、経験年数や保有資格に応じた待遇の相場観、地域による給与水準の違いなど、具体的な情報を得られる機会になるかもしれません。
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